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割と久しぶりの更新になるのでしょうか。
低音です。


生きてます。ええ生きてます。若干死にかけながら学校に行っておりますがなんとかなっています。
GWですね。私は五月のGWは二日以外は高校時代の友達と遊ぶ予定が詰まっています。
さらに、学校は六日から始まります。
そして、六日から始まるのにその週の土日も学校でさらにその翌週もいつも通りの学校です。
生きてるといいですね。私。
今日は久しぶりにのんびりしていたら高校の時に書いたものが出てきて、どこにも出してないのがあったのでそれを乗せようと思います。
久しぶりの修理屋です。追記から。



修理屋と憂鬱女


 修理屋の家の玄関での事。
「こんにちは」
 長い黒髪を揺らして、うっすらと少女は微笑んだ。
 彼女は修理屋の親しい友人、憂鬱女である。
「いらっしゃい。良い物そろってるよ」
 そう言いながら修理屋も答えるように微笑んで、憂鬱女を家に上げた。
 二人は半年に一回会うようにしている。主に、憂鬱女が修理屋の住んでいる村まで来て修理屋の家で一泊して帰るのだ。
 修理屋の住む村と憂鬱女の住む街はかなり遠い。それなのに、どうしてこの二人が知り合い親友になれたのか。
 それは、六年前にまで遡る。


 修理屋が十二歳の時。まだ本名で呼ばれていた頃の話だ。彼女には家族がいない。そして、一緒に住んでいた同居人も出て行ってしまって、一人だけになってしまった。
 それまで二人で経営していた『修理屋』を一人でやりくりしていかなければならなくなった。
 一人だけになって、かなり効率も悪くなった。そのため、あまり依頼は受けられない。今は一人で出来る範囲の依頼を受け持つので精いっぱいなのだ。
 今受けている依頼をやっとすべて終わらせたが、一人になってしまって以来を受ける数を減らしてしまったせいか、客足がぴたりと止んでしまった。
 今ではたまに近所で壊れたという家電を直しに行くだけで、生活費が少しばかり足りない。
 仕方なく、まだ十二歳の修理屋は廃墟を漁って直して使えそうなものを持ち帰り修理して売り出した。
 それは蓄音機だったり、細かい彫刻が施された棚だったり。さまざまなものを直してはあちこちで売りつけた。
 修理屋は、どこか別の所で良い物がないか探すために列車に乗り、適当に放浪しては何か持ち帰り修理する。


 何か月か経って、修理したものを売り出していくうちに修理屋の名が広がり始め、少しずつ依頼も増えてきた頃だ。
 その頃には一人での作業も慣れて何とか順調に店を経営できるようになっていたが、その辺から壊れた物を持ち帰り直すというのが趣味になっていて、今日も暇を見つけて列車に乗りどこか街か村へ行こうと考えていた。
 どこに行こうかとぼんやりとしているうちに、かなり遠くに来てしまったらしい。
しかも雨が降っている。雨は少しずつ強くなっていった。
 やがて、雨で視界が遮られた中、何かぼんやりと灯りが見えた。駅だ。
 修理屋はそこに停まる駅に降りることにした。


 駅に降りると、温厚な笑顔を浮かべた駅員が出迎えてくれた。
「こんにちは」
 とても優しい声で話しかける駅員に、修理屋も挨拶を返す。
「こんにちは」
 挨拶を交わして、修理屋は考えた。
 どうやって、街に行こうか。折りたたみの傘くらいなら持っているが、そんなものでは到底防ぎきれないような雨だ。
 そうやって悩んでいると、駅員が話しかけてきた。
「もしかして、この街に来るのは初めてですか」
 駅員は温厚な笑みを絶やさない。
「はい。アテもなくふらふらとここに来たもので」
「そうですか。それなら、これを着ていくと良いですよ」
 そう言って駅員が差し出して来たのは、雨合羽だった。
「ここは傘だけでは濡れてしまいます。合羽と傘を使うのが一番良いのですが、合羽だけでも十分雨を防ぐことが出来ますから、どうぞ」
 修理屋は、駅員の言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます」
 駅員から雨合羽をもらい、鞄も濡れないようにすっぽりと全身を包んで、雨の中を歩き出した。


 厚い雨雲で覆われて薄暗く、雨のせいで余計に周りが見えにくいが、歩いていくうちに目が慣れてきた。
 建物はほとんど煉瓦で出来ているようだ。赤い煉瓦や黄色い煉瓦もあるのだが、雨のせいでほとんどが灰色に見えてしまう。
 きっと晴れていれば、とても綺麗な街並みだったのだろう。
 修理屋はしばらく当てもなくふらふらとさ迷い歩いているうちに、足が疲れてどこかで休みたいと思っていた。
 しかし、どこの店が開いているかよりも店が見当たらない。
 何処でも良いから修理屋は休みたくて、辺りを見回した。
 すると、一つの店からぼんやりと灯りが見えた。
 扉に近寄ると、『open』と書かれた看板がぶら下がっている。
 修理屋は助かったと言わんばかりに、その店に入って行った。


 中に入ると、家具が沢山並んでいて、最低限歩けるように細く通り道があるくらいだ。
家具屋と思いきや、小物や本がある。本を売る家具屋は珍しいだろう。
中は灯りが一つぽつんと点いているだけで薄暗く、奥の方はよく見えない。
「いらっしゃいませ」
 急にか細い声が聞こえて修理屋は驚いた。
 慌てて周りを見回すと、自分と同じくらいの少女が立っていた。
 長い黒髪を一つに束ねていて、無表情で修理屋の目をまっすぐと見ている。
「あ、あの、ちょっと雨宿りをしたくて、その、何か買いに来たとかじゃないんです」
「そうですか。それでは、どうぞごゆっくり。骨董品だけではなく、雑貨も扱っておりますので」
 そう言って少女はまた奥の方へ引っ込んでしまった。
 少女が見えなくなると、修理屋は家具を調べた。どうやらアンティークの様だ。置いてあった壺もよく見るとかなり年季の入ったもので、先ほど発見した本もかなり古い物であることが分かった。
 アンティーク以外にも、可愛らしい小物入れや人形などを見つけた。中には怪しげな箱もあったがそれは触らないで置いた。
 そして、一つの電気スタンドに目が留まった。綺麗な模様と色合いのガラスのカバーで、支えている支柱は金属製で美しく繊細な曲線を描き、所々に見える汚れがこれまで壊れずに存在してきたことを物語っている。
 修理屋はその電気スタンドに興味を持った。この電気スタンドが柔らかな灯りを灯すところを見てみたい。そう思って、電源に手を伸ばし、電源を入れた。
 しかし、電気スタンドは光らない。修理屋は首をかしげた。電球もついているのに、電源はちゃんとつながっているのに。
 修理屋はかなりがっかりした。この電気スタンドが光るとどれほど素晴らしいだろうか。どうしても見てみたくて、修理屋は先ほどの少女がいないことを確認するとこっそりと、いつも腰にぶら下げている工具を取り出した。

 電気スタンドを分解して、切れていた配線を繋いだり、目立つヒビを軽く補修したりしているうちにかなり時間が経った。
「これで点くはず」
 修理屋はそう呟いてもう一度電源を入れた。
 すると、電気スタンドはガラスでできたカバーを通して綺麗な光を放つ。青や赤、桃色、黄色と壁や天井を彩った。
「どうなさいましたか?」
 少女がやってきた。どうやら、直したばかりの電気スタンドの灯りに気づかれたようだ。
「あら……その電気スタンドは壊れていたはずなのですが」
修理屋は勝手に修理したことがばれたと思って慌てて言った。
「ご、ごめんなさい。勝手に直しちゃって……」
 そう謝る修理屋を素通りして、少女は直したばかりの電気スタンドを眺めた。
「やっぱり、綺麗だわ。灯りが点いていると更に綺麗に見える。そう思って、直したのでしょう?」
 少女が感情がこもっているのかわからない声で言った。修理屋は恐る恐る答える。
「そ、そう。灯りが点いているところがどうしても見たくて」
 修理屋は若干口ごもりつつも正直に話した。
「お礼をさせてください。いくらですか」
 そう言いつつ少女は部屋の奥に行こうとした。
「ううん! いらない! 私が勝手に直しただけだから!」
 修理屋は慌てて止めた。許可もなしに直したのに金をもらうのは何だか気が引ける。
「そう……なら、お茶でも如何ですか? ここはずっと雨が降っているから少し冷えたでしょう。今用意しますから、そこに座って待っていてください」
 少女はさっきよりも早く奥に引っ込んでしまった。
 その場に残された修理屋は、少しの間その場に立ち尽くして、やがて座っていてほしいと言われたソファに腰かけた。

 しばらくして、少女は銀の盆に何か沢山乗せて持ってきて、修理屋の座っているソファの前の細かい彫刻が施された机に置いた。
「良い香り」
 修理屋はあたりに漂うお茶の香りにうっとりとしながら言う。
「そうでしょう。これは私のお気に入りの紅茶なんです」
 そう言いながら少女は美しい模様を描いたティーカップにお茶を注いでいく。
「紅茶っていうの?」
 修理屋は聞いたことのないお茶の名前を繰り返した。
「紅茶は初めてですか。きっと気に入ってもらえると思います」
 少女はティーカップを一つ修理屋の目の前に差し出した。
 修理屋ティーカップを手に持って、ふわりと漂う香りを吸いこんで、一口飲み込んだ。
「……すごく、良い香りがする」
「そうでしょう。紅茶は味だけでなく、香りも楽しむのですよ」
 少女は相変わらずの無表情だが、なんとなく最初見た時よりも柔らかな表情だと、修理屋は思った。
 しばらく、二人がそれぞれ紅茶を楽しんだ後。
「貴女の名前、聞いても良い?」
 そう修理屋から話しかけた。少女はちらりと修理屋を見て言う。
「普通は自分から名乗るものですよ。まあいいでしょう。
そうですね。私の事は憂鬱女とでも呼んでください」
 修理屋は眉をひそめた。
「本名じゃないの?」
「当たり前でしょう。私、人にはあまり本名を名乗らないようにしているので」
「どうして、本名を名乗らないの?」
「私の勝手じゃないですか」
 憂鬱女と名乗った少女は、冷たい返答をする。
「それより、貴女の名前はなんですか? 私だけに答えさせておくなんてことはないでしょう」
 無愛想な言い方ではあったが、もっともなので修理屋はこう答えた。
「んー。じゃあ、私は修理屋って事で」
「修理屋?」
「うん、私の住んでる村で修理屋を経営してるの」
 憂鬱女は頬杖をついて感心したように言う。
「なるほど。だからさっき電気スタンドを短時間で」
「そうでもないよ」
 修理屋は褒められたのがうれしくて、頭を掻いた。
「あれは、もっと昔の物なのです。今は技術も進んだでしょう。けれど、進み過ぎて皆が昔の技術を忘れてしまったものだから、あれを直せる業者を探すのは本当に大変なんです。ところで、貴女はどんな物なら直せますか?」
「なんでも」
 修理屋は即答で答えた。その答えに、憂鬱女は何も言わず一瞬間が開いた。
「なんでも?」
 憂鬱女は確認をするように繰り返す。修理屋はそれに頷いて。
「なんでも」
 と、自信を持って答えた。
「それでは、私の店の品を修理してくれませんか?もちろんお金は払います」
「んー、高くつくよ?」
 修理屋は、直す物が大きければ大きいほど代金が高くなる。それ以外にも、あんまり難しい技術を使っている物だとかもかなりの値段になるのだ。
「それでもかまいません。店の品も、使える方が良いんです。あそこの食器棚も、戸が開かなくなっているんです。家具ですから、使えなければ意味がありません」
「でもさ、憂鬱女さんも私とそんな変わらない歳だし、あんまり高い値段だとちょっと気が引けるって言うか……あ、そうだ」
 修理屋は何かひらめいたというように人差し指を立てた。
「友達になろうよ」
「急に何を言いだすのですか」
 憂鬱女は容赦なく切った。修理屋は思わず前のめりになったが、体制を立てなおして、説明をする。
「友達ってよくない? あたし、貴女となら仲良くなれる気がする」
「どうでしょうね」
 憂鬱女は相変わらずの無表情でそう冷たく返しつつ、二杯目の紅茶を淹れた。
「修理代、安くなるかも?」
 修理屋がそそのかす。もちろん冗談ではあるが。
「言ったわね?」
 急に、憂鬱女が敬語で喋るのをやめた。修理屋は一瞬、やってしまったというような顔をした。
「それなら、いいわ。私の店もそんなにもうかるわけじゃないの。ほら、ここ晴れないでしょう。だから、お客様もとても少なくて、たまに高値で売れた商品のお金を切り詰めて生活しているの。そういうのは、とてもありがたいわ」
 淡々と喋る憂鬱女の目の前で、修理屋が若干困ったような顔をしている。それを察したのか、憂鬱女は軽くため息を吐く。
「もちろん、貴女が納得できる値段でいいの。値段が引けないなら、引けないで良い」
「い、いいの?」
「友達、なんでしょ?」
 憂鬱女は、ほんの少しだけ笑った。
「だから、急に敬語をやめたのね」
 修理屋は苦笑する。それを憂鬱女が無表情なのにどこか楽しそうに見ていた。


 どこか遠くで、鐘の音がした。
「鐘?」
 家具の修理の計画を立てていた修理屋が珍しそうに耳を傾ける。
「この街はとても広くて、歴史もそれなりに古いのよ。ずっと昔から、この鐘が時間を教えてくれるの」
そういいながら憂鬱女は時計を差した。
時計は四時を指している。
「もうそんな時間か……そろそろ帰らなきゃなあ」
「あら、もう列車は出発してしまった所よ」
「え?じゃあ次は……」
「あと一時間と言った所かしら」
「えぇ!? 困るよ」
 修理屋が急に立ち上がったせいで、机の上のティーカップやポットが揺れた。
「そうねぇ、四時半にここを出れば間に合うんじゃない?」
 憂鬱女は全く表情を見せずに、淡々と話す。
「あーあ……」
 修理屋はもう一度、座っていた椅子に腰かける。
「準備をした方が良いわ。次を逃すと、六時の汽車に乗る事になる」
 憂鬱女がティーセットを片づけながら言うと、修理屋は慌てて帰る支度を始めた。
 修理屋の帰る支度も終わり、憂鬱女がティーセットを部屋の奥に置いてきて戻ってきた時。
「ねえ、一緒に私の村に来ない?」
 そう修理屋が誘った。憂鬱女はしばらく黙っていたが、やがて。
「なぜ?」
 そう聞き返した。
「だって、ここは雨しか降らないんでしょ? こんなところに住むのはきっと不便だよ。それに、誰も出てこないし。私の村は晴れがほとんどで、外に出ると村に住んでる人たちがいっつも外にいるの。きっと、憂鬱女も気に入るよ」
 修理屋は憂鬱女に屈託のない笑顔で、純粋に思った事をそのまま伝えた。
 憂鬱女は、黙り込んだ。修理屋は返事を待つが、いつまでたっても返ってこない。それでも、返事を待ち続けた。
 やがて。
「いいえ。私はここに住むわ」
 憂鬱女がそっと首を振る。その答えは、修理屋にとってはかなりショックだった。
「どうして? だって、雨しか降らないんだよ? 誰とも会わないんだよ? ずっと雲に覆われて暗いんだよ?」
「それでもいいの。私は、この街が好き」
 憂鬱女は修理屋の目をまっすぐに見据えてはっきりと言う。修理屋は、納得が行かないというような顔で立っている。
「ねえ、修理屋」
 憂鬱女が、初めて修理屋の名を呼んだ。
「貴女は、この街に住もうと思う?」
「……ううん」
 修理屋は、静かに少し悲しそうに答える。
「同じよ。貴女がここに住みたいと思わないのと同じ」
 憂鬱女は、修理屋の鞄を差し出す。修理屋がそれを受け取ると、憂鬱女は店の入り口に向かった。
「そろそろ出ないと間に合わないわ。行きましょう」
 扉の横にあった壁掛けから、雨合羽を取って雨で濡れないようにしっかりと前を閉じて、扉を開けた。
 修理屋は何も言わずに憂鬱女の後に続いた。


 駅に着き、二人は電車を待つ。
「ねえ、修理屋さん」
 憂鬱女が話しかけてきたが、修理屋は返事もせずに黙っていた。
「貴女にも、そのうちわかるわ。貴女は人の気持ちを考えられないような人じゃないもの。誘ってくれてありがとう。とても嬉しかった」
 そんな言葉に、修理屋は少し驚いたような顔をして憂鬱女の顔を見た。
 憂鬱女は、今日会って今までに見た事ないくらいしっかりと微笑んでいた。
「汽車が来たわ」
 そう言われて我に返ると、いつの間にか汽車が駅に停まっていたのだ。
 修理屋は汽車に乗り、扉を閉める前に振り返った。
「また、会える?」
「会えるわ。今度は、私が会いに行く」
 修理屋は嬉しそうに笑った。
「お茶を用意して待っとくよ!」
 それに憂鬱女が頷き言った。
「楽しみにしてる」
 それから、お互い手を振って、汽車は走り出したのだ。


「もうあれから六年か」
 修理屋が畳の上で胡坐をかいて言う。
「長い付き合いになるわね」
 憂鬱女は上品に足をそろえて片方に流し座っている。
「ここに来てから緑茶と言うものを初めて飲んで、とても気に入ったの」
 憂鬱女はそう言いながら湯呑にまだある緑茶を少し揺らした。
「そりゃどうも」
 修理屋はちゃぶ台に頬杖をついて笑う。
「あのさ、あの時のいつかあたしにも解るって言葉だけどさ。わかったよ」
「あら、そうなの。私、貴女の頭じゃ一生わからないと思ってたわ」
「酷いなあ」
 修理屋はからからと笑う。それにつられて、憂鬱女も声をあげずに笑う。
「これからよろしくね」
「えぇ、もちろん。こんなに安く骨董品やら雑貨やらが買える店はそうそうないわ」
「そんな扱いなの」
「冗談よ」
 いつものようにふざけ合う二人を眺めるように修理屋の飼い猫であるしらたまが縁側で日向ぼっこをしている。
 二人の関係はこれからも長く続くようだ。





これは部誌に載せるために書いたのですが、この時絶賛スランプ中でこんなのしか書けなくてこれじゃないんだよなあと言う事で没になったものです。
なんですけどぶっちゃけこれでもよかったじゃんと今更思っております。
修理屋と憂鬱女の出会いでした。
読んで下さった方、ありがとうございました。


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【2014/04/30 18:51】 | 修理屋シリーズ
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部活がなくなってからは、三題噺を自分でやったりしています。
低音です。


一応リハビリと言うかそんな感じで書いてます。
修理屋は三題噺のほうが書きやすいんです。
ただ、お題はなんだったか忘れてしまいましたごめんなさい。
それでは、追記からどうぞ。
修理屋と青春カップル


「修理屋さんって、魔法を使ってるみたいね」
 そう言われて少女は顔をあげた。長い金髪を後ろに結い上げ団子にした髪型でラフな格好をしている少女は青い目で先ほどの言葉を放った相手を見つめる。彼女が、この街で唯一の修理屋を営んでいる修理屋と呼ばれる少女だ。
修理屋の目の前には肩に着くぐらいの茶髪で毛先があちこちに跳ねている女性が見つめ返している。
「そお?」
 修理屋は手元にある赤色のリボンに視線を戻し修復を進める。
「いつもそう思うの。修理屋さんに修理を頼むと、どこが壊れてたのかわからないくらい綺麗に直してくれるから」
 茶髪の女性はリボンを見つめた。このリボンは彼女が修理を依頼したリボンだ。出かけていた途中で小枝にひっかけて破いてしまったという。
「それはどうも」
 修理屋は嬉しそうに笑いながらリボンを直していく。もうどこが破けていたか解らないくらいには直ってきた。
「はい、直った」
 修理屋は女性にリボンを差し出す。
「ありがとう」
 女性はリボンを受け取ると髪を結いあげ始めた。
「今日はおめかししてどこかにお出かけ?」
「ちょっとね、遊びに行くだけ」
 つん、とした態度をとる女性は髪を綺麗に結い上げ終えると、鞄を探る。
「修理代はいくらになる?」
「いいよ。サービス」
「え? いいの?」
 女性は驚いた顔をして、すぐに不安そうに「でも」と言う。
「いいのいいの。デートかなんかでしょ?」
 修理屋がにやつきながら言うと少女は顔を赤くした。
「そ、そんなんじゃないもん」
 急によそよそしい態度をとる女性は何とも初々しい。
「またまたー。可愛いよ。赤いリボンも赤い洋服も髪の色によく似合ってる。ね、ね、誰とお出かけ?」
 女性は顔を赤らめつつ少し考えるふりをして、仕方ないといいたげだが、どこかまんざらでもない様子で答える。
「ちょっとね、ある人にお出かけに誘われたの。だから、そのお出かけにちょっと付き合ってあげるだけ」
「あはは、素直じゃないねー」
「何よ。からかって」
「ごめんごめん。時間大丈夫なの?」
「そろそろ行かなきゃと思ってたの。
リボンありがとう。そのうち埋め合わせさせてね」
女性は手をひらひらと振って修理屋の家を後にした。修理屋はそれを見送り、畳に寝転がる。
「いいねえ、恋って」
 昼寝でもしようと座布団を二つに折り曲げた所でまた客が来た。
「すみません!ここって修理屋さんですよね!?」
 今度の客は男だ。かなり慌てている様子。
 修理屋もすぐに立ち上がって玄関に近づく。
「はいはい、ここは修理屋ですよ。依頼ですか?」
「あ、はい、ええと、これ! すぐに直せますか?」
 男は手に持っているものを修理屋に突き出す。勢いがついていたので修理屋は一瞬ひるむが、手に取って渡されたものを見る。
「えっと、眼鏡?」
「そうなんです。さっき、うっかり落として踏んじゃったらつるが折れてしまって!」
「時間はどれくらい?」
「ぎりぎりで十五分くらい」
「わかりました。すぐ直すんで」
 修理屋がとっとと作業場に潜ると、男はその場に座り込んだ。
「上がってお茶とか飲んで待っててくださいねー!」
 作業場から修理屋の声が飛んできた。
男はその場で慌てるもすることがなくてとりあえず言われたとおり家に上がる。
しかし、やはり落ち着きがない。何か急いでいるのだろうか。
十分経たないうちに修理屋が出て来た。
「一応かけてみて」
 男はすぐに眼鏡を受け取りかける。
「ああ、よかった。直って」
「気になるようだったら、用事が終わった後でまた来てください。安くしときますよ」
「すみません、じゃあまたその時にお代を……」
「良いですよそんなの。急いでるんなら早く行った方が良いと思いますよー」
「ああそうだ! すみません本当に! ありがとうございました!」
 男はまた慌てて修理屋の家を飛び出す。途中でこけそうになるが何とか持ち直しながら走り去っていった。
 それを、また見送りながら修理屋は今日は騒がしい日だと笑って呟いた。

 その夕方。赤いリボンを揺らして、女性が訪ねてきた。修理屋は女性にお茶を出して今日の出来事について耳を傾ける。
「お出かけは、悪くはなかったわ。向こうが遅刻してきたけれど」
 少しふて腐れたような様子を見せるが、それでもどこか嬉しそうな雰囲気は隠しきれていない。
「それは良かったじゃない。それで、どこまで進んだのよ」
「まだそんな、恋人と言えるようなことはしてないわ。そんな雰囲気が出来ても、あの人ドジだからすぐに壊れちゃうし。今日だって、遅刻してきた理由が来る途中で眼鏡落として踏んづけて壊れたから修理してた、とか言ってたし」
「ああー……」
 修理屋は眼鏡の修理を頼みに来た男を思い出す。
「その後は、一緒にお茶したり話をしたりしたけど、楽しかった」
 女性は湯呑の中のお茶を見つめながら、今度は隠そうとしないで嬉しそうにほほ笑んだ。
「ああでも……」
 しかし、すぐに曇ってしまう。
「なんかしたの?」
「私ったら素っ気ない態度ばっかりとって……あの人呆れてないかしら」
 そう不安そうな顔をして落ち着かない女性は誰から見ても恋する乙女である。修理屋はそう微笑ましく思った。
「そんなことはないんじゃない。だって、本当は今日が楽しみだったみたいだし、だから頑張ってお洒落もしたんでしょ? 大丈夫だよ。きっと」
 女性は冷めてしまったお茶を見つめている。それから、また口を開いた。
「そうね。そうよね、きっと」
 どこか安心したように言葉を繰り返した。
 修理屋はうんうんと頷いて煎餅をかじろうとして手を止めた。
「あ、そうだ。大福があるんだけど食べない?」
「大福、良いわね。私大福は大好物なの!」
 女性が上機嫌に言い、修理屋は棚から大福を取り出して二人で大福を分け合いながら、女性のお出かけの話を聞いた。その時の女性はとても楽しそうだったという。









いつも通り良くわからない話ですが。
つまり、その。恋っていいねって言うお話です。


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【2014/03/31 00:26】 | 修理屋シリーズ
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久しぶりの修理屋です。
三題噺で書きました。
お題が「バタフライナイフ、花火、よろしいならば(ここは自由)だ。」だったのでちょっとカオスってるところがあります。

これから二、三日くらいはたぶん余裕が出来るのでちょっとずつ小説のほう進めていきたいと思います。望と吹雪が付き合うまでのお話とか、沙羅のライバルの話とか。
と、言う訳で追記からどうぞ。
あ、あと新キャラ出ます。ちょっとこのころはまだアレだったんで説明ないので驚くかもしれません。すみません。



修理屋憂鬱女お花見


 じりじりと照りつける太陽。去年よりも近づいたのではないだろうかと思う程である。
 修理屋は依頼されたものを直すために、重たい工具を持って依頼人の家に向かっている事だった。なんでも大きすぎて修理屋の家まで持ってこれない物だとか。
「あっついなあもう!!」
 あまりの暑さに修理屋の足取りも若干苛立ってるように見える。
 修理屋の飼い猫であるしらたまは家で留守番をしているのだ。涼しい影の下でのんびり昼寝をしながら。
「いいなあ猫はさあ……」
 そんなことをぼやきながら修理屋は歩いて行った。


「ごめんなさいねえ、急にアイス用冷蔵庫が壊れちゃって」
 そう、駄菓子を売っているおばさんが困ったように笑う。
 修理屋は《アイス》を冷やす冷蔵庫に顔を突っ込んで工具を使い、直していく。
「いえ、大丈夫ですよ」
 そうは言うものの電源の入っていない冷蔵庫はただの箱でしかなく、暑い事に変わりはない。
 汗を垂らしながら配線を直して、切れているところには新しい配線を繋いでという作業を繰り返す。
「そういえば、アイスとかはどうしたんですか?溶けちゃったり……」
「もうどうしようもなくて近所に配っちゃったの。ほら、今日はこの暑さでしょう?いくつか余ったりしたんだけど、それは家の冷蔵庫にしまえたから」
「あぁー、それはご愁傷様です」
 アイスくいてえよちくしょーなんて本心で思いながらも修理屋は着々と冷蔵庫を直していくのであった。

 まだ日が頂点に上る前に、修理は終わった。スイッチを入れて動くことを確認すると、修理屋は駄菓子屋のおばさんを呼んだ。
「なおりましたよー」
「あぁ、ありがとう。よかったわ、これでまたアイスを売り出せる」
 おばさんは嬉しそうに冷蔵庫を撫でる。
 修理屋も「よかったですね」と言って工具をしまい始めた。
「お代はいくらかしら」
「えーと」
 修理屋は目にも止まらぬ速さで電卓を叩いて、修理費を打ち出した。
「こんなもんですかね」
「はいはい、わかりました。そうだ、良かったらお昼食べて言ってちょうだい。親戚からね、良いお素麺を頂いたのよ」
「あ、ありがとうございます!」
 修理屋は昼食にお呼ばれして、そこらへんで買う安いものよりものど越しのいい素麺をごちそうになった。
「これすごく美味しいですね。つるつるしてて」
「喜んでもらえて何よりだわ。あ、そうそう、今度お祭りがあるのは知ってる?」
 そう話を振られて、修理屋は素麺を飲み込んだ。
「え?いつですか?」
「二週間後にあるの。その時に私もお店を出すから、良かったら来て頂戴。花火もあるのよ」
 駄菓子屋のおばさんは、棚から一枚の紙を取り出した。そこには、浴衣を着て笑っている子供や、屋台、金魚と言った風に絵が描かれていた。

 帰り道、修理屋はそのちらしを見つめて思い出した。
「二週間後って憂鬱女が来る日じゃん」
 そう、二週間後に憂鬱女がやってきて、新しく雑貨を買っていく日なのだ。そうなると出かけるのは難しいかもしれない。
 と、いうことはおばさんのお誘いは断るしかないのだ。
 そう思ったが、すぐに別の案を思いついた。


「こんにちは」
 修理屋は暇つぶしに拾ってきたものを直していると、外から声をかけられた。声の主は解っている。
 修理屋は立ち上がって、玄関の引き戸を開ける。
 そこには、青色のワンピースを着て、長い黒髪を一つに括っている、おそらく修理屋と同い年であろう少女がいた。
「久しぶり、憂鬱女。暑かったでしょ。入りなよ」
「ありがとう修理屋」
 憂鬱女と呼ばれた少女は修理屋に勧められ、中に入って行った。
 修理屋は白い冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いで冷凍庫から氷を出して三つほど入れた。
「遠いところお疲れ様。泊まっていくでしょ?」
 麦茶を盆に乗せて、居間に運びながら言う。
「ええ、麦茶ありがとう」
 憂鬱女はよほど暑かったか、ハンカチタオルで汗を押さえながら冷たい麦茶を飲み込んだ。
「今年は暑いでしょ。そっちは涼しそうで良いよね」
「そうでもないわ。こっちは、湿気が多くて商品の手入れも大変なの。除湿機がもう一台欲しいくらいよ」
「ん、じゃあまた探して直しとくわ」
「ありがとう」
 修理屋は入れたばかりの麦茶をすぐに飲みほし、立ち上がって修理屋の作業場に消えた。
 数分経ってから戻ってきた。何か沢山抱えている。
「これが直したやつね」
 そういって、小物を憂鬱女の隣に並べていく。
 並べ終わると、次は大きなものを持ってくると言ってまた作業場に消えて行った。
 修理屋は手袋をはめて、一つ一つ汚さないように見ていく。
「これ良いわね……とっておこう。あとこれも」
 手際よく必要なものを取っていく。
「あとはこういうでっかい家具なんだけど」
 修理屋が最初に持ってきたのはランプだった。
「それいいわね。ちゃんと点く?」
「当たり前でしょ。あと、この棚とか。あ、それからなんかいい本落ちてたから拾った。ページは全部残ってるし多少の汚れも落として破れそうなページは補修しておいたから」
 タンスと一緒に持ってきた本を差し出した。
 憂鬱女は丁寧に本をめくって品定めをする。
「これも欲しいわ。それから、この花瓶やお皿も」
「了解。精算するから待ってて」
 修理屋はいつも常備している電卓を取り出し打ち始める。
 相変わらず見てて思わず凝視してしまうような速さだ。
「大体こんなもん?」
 精算をし終えた修理屋は憂鬱女に電卓を見せた。
「あー……もうちょっと安くならない?」
「これ以上?これでも結構加減したんだけど……」
「じゃあなんか一つ買うのやめるわ」
「わかったわかった!ちょっとだけだからね」
 修理屋は渋々といった様子で値引きをして、憂鬱女に再び見せると憂鬱女は満足そうな笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。

「夏祭り?」
 憂鬱女が買ったものを壊れないように包装しながら聞き返した。
「そう、夏祭り。花火大会ともいう」
 修理屋も憂鬱女の手伝いをしながら答えた。
「花火……?花なの?」
「あれ?花火知らない?花火ってあれだよ。爆弾みたいなのに火をつけて空に打ち上げて爆発させるの」
「なんかの兵器?」
「ちがうよ」
修理屋は真顔で兵器だと言った憂鬱女が可笑しくて笑い転げ始めた。
「なによ、知らないんだから仕方ないでしょ」
 憂鬱女が少し怒ったような声で言う。
「ごめんごめん。そういえばさ、憂鬱女は春に花見とかしてないよね」
「そうね、私の住んでるところに桜なんてものは咲いてないもの」
「よろしい!!」
 がたっと修理屋がいきなり立ち上がって、腕を大きく横に振り言った。
「ならば、花見だ!!」
 その場がしばらく重たい空気で包まれたのは言うまでもない。
 憂鬱女は手を止めて修理屋を見ている。修理屋も反応を待っているのか憂鬱女を見ている。
 その部屋の隅でしらたまはつまらなそうに眼を細めて大きな欠伸をした。
「急に何言いだすのかとおもったわ」
 長い長い沈黙を破って憂鬱女が呆れたように言う。
 修理屋もさすがに恥ずかしく思ったのか顔を真っ赤にして言った。
「言ってみたかっただけ」
「そう。で、何するの?」
「え?」
「だから、お花見するんでしょう?どうやるの?」
「あぁ、うん。その夏祭りなんだけどさ」
 二人はお花見について話し込み始めた。


 すでに外は暗く、修理屋と憂鬱女は祭りがおこなわれている場所へと向かっていた。
 少し遠くが明るく、人の声が聞こえる。おそらくあそこだろう。
「ほら早く。もう始まってるよ」
 修理屋は、はしゃぎながらゆっくりと歩いてくる憂鬱女を待った。
「ちょっと待ってよ。私、浴衣なんて初めて着たんだから。それにこの草履もちょっと歩きづらくて……」
 修理屋に勧められ、憂鬱女は青い浴衣を着ていた。
「まあまあ、お祭りは雰囲気が大事なんだから」
 そう言って笑う修理屋に黄色い浴衣は良く似合っていた。
 憂鬱女がやっと修理屋に追いついて、修理屋は憂鬱女に合わせてまた歩き出した。

 祭りには屋台がたくさん出ていて、人でにぎわっていた。
「これが夏祭り?」
「そう、これが夏祭り」
「冬はしないの?」
「うーん、冬はした事ないねえ。雪も降らないしさ、ただ寒いだけだし」
「そうなの。ねえ、あれは何?」
 憂鬱女は一つの屋台を差した。
「あれは、金魚すくい。薄い紙で金魚をすくう遊び。紙が破けたらおしまい」
 説明をしてみるものの、憂鬱女はあんまりしっくりきてないようだ。
「やってみるから見てなよ」
 修理屋は金魚すくいの屋台に近寄って、お金を支払って紙をもらった。
 紙は直径十センチくらいの竹の輪にしっかりと張ってあって、取っ手がついている。
「これをね、こう」
 修理屋が、大きな水槽で泳ぐ金魚の群れにそれを入れると、右手軽くをひねって左手にある水の入ったお椀に金魚をいれた。
「おぉ」
 憂鬱女にしては珍しく、驚きの声を上げた。
「結構面白いよ。憂鬱女もやってみる?」
「私はいいわ。難しそう」
「まあまあやってみなよ。はい」
 修理屋は道具を憂鬱女に渡す。
 憂鬱女はあんまり気が進まないと言った様子で受け取り、紙を水に浸けて、金魚をのせた。
 しかし、濡れてもろくなった紙は破けて金魚は落ちてしまった。
「やっぱり難しいじゃない」
「あはは、ごめんごめん。まあ一匹取れたからいいでしょ」
 憂鬱女は少し不機嫌であったが、修理屋がとった金魚をみて何も言わないことにした。
 とれた金魚を水の入った袋に入れてもらって、二人は屋台を見て回った。
「たこ焼きって美味しいのね。初めて食べた」
「焼きそばとかも美味しいよ」
 たこ焼きを楽しんでいる憂鬱女の隣で、修理屋が焼きそばを頬張っている。
 二人は近くにあった長椅子に座って、少し早目の夕食を食べている。
「あの林檎はなに?」
 憂鬱女が指した方向をみると、屋台に真っ赤な林檎が並んでいる。
「あれは林檎飴。林檎に飴をかけて固めたやつ」
「美味しいの?」
「そうでもない」
「そう」
 憂鬱女は林檎飴に興味を失ったようだ。
 二人は自分の食べている物を交換しながら最近の生活や、変わったことを話して祭りを楽しんだ。

 夕食も食べ終わり、食後の飲み物を飲んでいた。飲み物はガラスでできていて、しゅわしゅわと甘い炭酸が入っている。その甘い炭酸の中に入っているビー玉が時折ころころと転がって光った。
「さて、そろそろ家に戻ろうか」
「え?花火は?」
「ここで見ると混んで暑いから、家から見ようよ。家からでも十分綺麗に見えるから」
「混むのはいやだわ。そうしましょう」
 憂鬱女と修理屋は立ち上がって、家に向かって歩き出した。


 修理屋の家に戻り、二人とも浴衣から楽な寝巻に着替えた。
「貴女の家の縁側は涼しいわね」
 憂鬱女は縁側に座り、うちわで仰いだりして涼しい風を楽しんでいた。
「そうですとも。夜はそこに座って夜空を眺めるのが楽しみでね」
 修理屋が自慢するかのように言う。
そして、憂鬱女の隣に座った。
「何を持ってきたの?」
「ん?せっかくのお花見だしさ、呑んじゃおうよ」
 そう言って見せたのは、お酒だった。
「あら、良いわね。何のお酒?」
「それが覚えてないんだよね。アルコールはそんなに高くないらしい」
「そう。でも美味しければそれでいいわ」
「あ、今するめ炙ってるから」
 憂鬱女は言われて香ばしいにおいが漂ってきていることに気づいた。
「準備が良いのね」
「あったりまえよ。そろそろいいかな」
 修理屋はもう一度立ち上がり、台所へ向かう。帰ってくると今度は程よく焼けたするめが二、三枚あった。
「これ、まんま一匹じゃない。大きすぎるわ」
「わかってるよ。だから切るの」
 そういうと、修理屋は懐からナイフを取り出した。
「それ、見た事ないナイフね。拾ったの?」
「うん。バタフライナイフっていって折りたためる便利なナイフ」
 説明しながら修理屋はするめを裂いた。
 その時、空から爆発音が聞こえた。
 二人が空を見上げると、真っ黒な夜空に赤色の花が咲いた。
「あれが?あれが花火?」
 憂鬱女は初めて見る花火に少し興奮しているようだ。
「そう、あれが花火」
 修理屋は花火に夢中になって空を見上げる憂鬱女をみて微笑ましく思った。
「綺麗ね」
「うん、綺麗だね」
「そうだ」
 憂鬱女は急いで自分の旅行鞄を持って来て、中からカメラを取り出した。縁側に座って、カメラのレンズを空に向けて、何度かカシャッと音を立てた。
「こういう時に便利だね。その機械」
「カメラね」
 修理屋に訂正をいれつつ、夜空を取り続ける。
「あ、すごい、緑もあるのね。あ、青も。ホントに綺麗」
「喜んでもらえて何よりだよ」
 憂鬱女は何枚か、撮るとカメラを下して縁側にすわった。
「とりあえず一杯」
 修理屋は二つのグラスに酒を注いだ。
「普段呑まないから、呑むのは本当に久しぶりだわ」
 憂鬱女は酒の入ったグラスを一つ手に取った。
「私もだよ。おいしそう。じゃ、夏のお花見に乾杯!」
「乾杯」
 二人はグラスを軽くぶつけて、酒とあぶったするめを楽しんだ。
 二人が見ていない隙に、しらたまはするめを一つ盗んで部屋の隅で食べている。


 翌日、憂鬱女と修理屋は駅にいた。しらたまも一緒だ。
「昨日はありがとう。楽しかったわ」
 憂鬱女はいつもの調子でお礼を言う。
「いやいや、こっちこそ」
 修理屋も、いつもの笑顔で返す。
「良い物も買えたし、写真も撮れたし。いいお土産になるわ」
 憂鬱女は自分の旅行鞄に目を移す。何故か嬉しそうに見えた。
「お土産って誰に?」
「私の街の駅長さん」
「あぁ、あの人か」
 そんな話をしているうちに、汽車が到着した。
「それじゃあね」
「うん、またね」
 憂鬱女は一度、乗り口で手を振って、中に入って行った。
 それから席に座り、発車の合図の笛が聞こえて、窓から修理屋に向かってもう一度手を振った。
 修理屋も、憂鬱女に手を振替し、汽車が見えなくなるまで見送ったのだった。








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【2013/01/25 00:20】 | 修理屋シリーズ
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久しぶりに短編を。
低音です。


短編っていうかメモみたいな何かだけどまあそれでもよろしければどうぞ。






最近は朝が暑くない。夜も涼しい方だ。
しかし、残暑はまだ続いているらしく昼間が暑い。
まだ帽子が必要になるだろう。
夕方もまあ涼しい方ではあるがまだ暑い。
「もうすぐ秋だねえしらたま」
修理屋は縁側にすわり、隣にいた飼い猫のしらたまに声をかけた。
まっしろでふかふかな毛並みの猫が答えるようにみゃあと泣いた。
名前はしらたま。しらたまは、半年ほど前に修理屋の家に来るようになった猫で、ここに来ては餌をもらいのんびりしているのでいっそ飼ってしまおうと言う事で、今は修理屋の飼い猫なっている。
まだ蚊は飛んでいて、豚の形をした置き物の口から煙が出ている。蚊取り線香だ。
暑さのせいで、コップに入れた氷が溶けて麦茶が少し薄くなっている。
「秋が近づいてるのはわかるよ。匂いがするんだ。でも、やっぱり暑いねえ」
修理屋は長めの金髪を後ろにまとめてだんごにしている。そして、ぱたぱたと朝顔の絵なんかが描いてあるうちわであおいでいる。
「秋になったら何しようか。落ち葉を見に少し木が多いところへ散歩に行こうね。それから、食べれるきのこがあればそれを採って帰ろう。あと、栗ごはんとか焼き芋もいいね。秋の楽しみは色々ある。
あぁ、でも、夏も楽しかったね。たらいに水と氷入れてさ、スイカ冷やして。夏祭りに行って、屋台で買ったものを家に持って帰って家から花火見たりしてね。来年の夏も楽しみだ」
しらたまが、修理屋に寄り添いごろごろと喉をならす。
修理屋がしらたまのあたまをなでながらしらたまに言う。
「今年の秋は本が読みたいな。もう少し涼しくなって、夜が肌寒くなったら本屋に行って気になった本を探しに行こうか。それと、しらたまの為に美味しい秋の魚も買ってあげようね」
しらたまがうれしそうににゃあごと元気よく鳴いた。
「秋が楽しみだねえ」
そう言いながら氷が溶けて少し薄くなった麦茶を飲みほした。






はよ秋こい。
なんならもう色々飛ばして次の日から冬こい。


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【2012/09/09 23:17】 | 修理屋シリーズ
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久しぶりの修理屋シリーズです。
低音です。


これはとある博士が残した日記。
えぇと、これ投稿した時間が時間なので直しが甘いですが後でなんとか……。
文章残念ですがそれでもよろしければ追記へどうぞ。









今日から、日記を付けようと思う。
私は文章を書くのが得意ではないから、短く終わってしまうかもしれない。
まぁ少しずつでも書いていけば、過去を振り返ることが出来る。
なるべく頑張ろう。
今日の日記はこれでおしまいにする。

今日は、特に何もなかった。
まぁそれが一番だろう。
とても短いが、お終い。

今日は大変だった。
私はいつものように研究チームで研究を進めていると、フラスコが爆発した。
機械の新しいエネルギー源を作っていたところだ。
幸いなことに、怪我人はいなかった。
どうやら、変な化学反応を起こして物質が膨大なエネルギーを引き起こし爆発したとみられる。
これからは気を付けるように指導をされた。

今日は、研修生が来た。
女性だった。
控え目で、とても大人しい娘だった。
名前は、カレン・ウォーカー。
私は彼女の教育係に任命された。
これから色んなことを教えて行かねば。

研修生のカレンには、見学するように言っておいた。
彼女は常に私の横にいて、メモ帳を持っていた。
どうやら勉強熱心な娘のようだ。
あと、機械が好きらしい。
私が機械にエネルギー源を入れている時にとても目を輝かせていた。
きっと彼女は将来良い研究者となる事だろう。

機械が異常事態を起こした。
特別な技術を持っている者ではないと、直せないような感じだった。
その特別な技術を持っているのは私しかいないらしい。
仕方なく、修理をするがやはり一人ではきつい。
 すると、カレンが来て言ったのだ。
「私に手伝わせてください」
しかし、これは特別な技術がなければ直せない。
 と言うと。
「私も、その特別な技術を持っています!」
と頼もしく声を張って言ってくれた。
それでは、お願いしようかな。
と、言うと彼女は笑った。
とても可愛らしい笑顔だった。

前回の機械の故障から、彼女の技術は高く評価された。
正式に、私の研究員チームに加えられた。
これからは彼女も交え、頑張って行こう。

最近忙しくて、日記が書けなかった。
久しぶりの日記になる。
そうだ、試作品の機械が完成間近になった。
楽しみである。

ついに、ついに出来上がった!
試作品は完璧に作動した。
これなら文句なし。
上からも褒められた。
休暇をもらった。
せっかくの休暇だし、カレンでも誘ってどこか出かけよう。
新人ながら、彼女が一番頑張ってくれたのだから。

今日は、カレンを誘い出かけてきた。
買い物をしたり、お昼を食べたり、途中猫とじゃれたり。
とても楽しい一日だった。
途中、とてもきれいなペンダントがあったのでプレゼントした。
最初はいらないと言っていたが、機械が故障した時に手伝ってくれたお礼だというと受け取ってくれた。
少し恥ずかしそうに。
そんな彼女を見て、可愛いと思った。

長い休暇はまだ続く。
今日は、カレンが私の家を訪ねてきた。
小さな鉢植えを持って。
 鉢植えには、白いつぼみの植物が植えてあった。
「これ、もらってもらえませんか」
 そう、彼女が言う。
「月下美人と言います。
これは、私が好きな花なんです」
 何故、持ってきたのかを尋ねた。
「貴方にあげたかったんです」
そう、花のように笑う彼女はとても美しくて愛おしい。
私は、月下美人を受け取った。
ちゃんと世話をして、咲くのを楽しみにしよう。

昨夜。
月下美人が咲いた。
真っ白な花弁を広げ、何とも言えない心地よい甘い香りをふわりと撒いて私の鼻をくすぐる。
月下美人とは、こんなにも美しい物なのか。
いつまでも見ていたい。
写真を撮り、もう一度眺めた。
どれほど見とれいただろうか。
月下美人がしぼんできた。
私は慌てて水をあげたが、花弁が散ってしまい茎だけになってしまった。
とても残念だった。

後に調べたが、月下美人とは夜にしか咲かない物らしい。
そして、時期が時期だったらしく散ったようだ。
あと、百年は咲かない。
そう本に書いてあった。

「月下美人、枯れてしまったんですか」
と彼女は少し悲しそうに言う。
 私はごめんね、と謝りながらコーヒーを出した。
「いいえ、いいんです。
時期が時期ですから、こちらこそ何だかごめんなさい」
と、カレンは私に頭を下げた。
私は慌てて、否定した。
 カレンさんは悪くないと。
「また、生きてるうちに見れることを楽しみにするのも悪くないと思います」
とカレンはほほ笑んだ。
いつもの、花のような笑顔だった。

急に、異動を言い渡された。
何故か私の研究チーム全員に。
皆行き先がそれぞれ違う。
しかし、私とカレンだけは同じ雨の街ともいわれるエリン街に行くことになった。
本当に突然で、全員うろたえている。
だがうろたえても決まったことは仕方ない。
私は、カレンとエリン街へと向かった。

エリン街に着いた。
流石雨の街、とでも言うべきか。
土砂降りの雨で、誰もいない。
一応人は住んでいるらしい。
……本当に住んでいるのだろうか。
こんなところで立ち止まっても仕方ないので、私たちは研究所を探した。
そんなにかからなかった。
精々三十分と言ったところか。
中に入ってみるも、人がいる気配はなく研究室も埃まみれだった。
大体、研究所と言うより民間の家に近いわけだが。
様子がおかしいと、電話で問いただすと「エリン街の研究所を普及させてほしい」と言われた。
誰も受けたがらないから、私達に押し付けたらしい。
騙された。

どうしようもなく研究所の中で椅子に座っていたが、街を見て回ろうということになり傘を差して外に出た。
しばらく歩くと水を蹴飛ばすような音が聞こえた。
誰かいる。
思わず立ち止まって周りを見回す。
バシャッ!!と背後で聞こえて、振り返る。
そこには幼い少女が立っていた。
レインコートを着ている。
 私は少女に話しかけた。
「君、ここの子かな」
 少女は答えてくれた。
「うん」
「ここは、人は住んでいるのかい?」
「この辺りには住んでいないよ。
皆、高いところに住んでるの」
と、少女は高い建物を指す。
 窓を見ると明かりがついている。
「君はどうして一人なの?」
「お父さんもお母さんもいないもん」
「…」
 聞いてはいけないことを聞いたようだ。
「ねぇ、お兄さんとお姉さんはどうしてここにいるの?」
少女が首をかしげて聞いた。
私は、なんと答えればいいのかわからず少し黙った。
正直、小さい子供の対応は得意じゃない。
 答えに困っていると。
「私たちは、ここにお仕事しに来たの」
 と、カレンが優しい笑顔で話しかけた。助かった。
「…こんなところに?」
少女は納得が行ってないように首をかしげた。
 やはり、こんな幼い少女が思う程ここに人が来るという事は珍しいようだ。
「そうだとしたら、お兄さんとお姉さんはお仕事の人たちに《厄介払い》されたの?」
正直、こいつ可愛くないと思ったのは言うまでもない。

「お店?あるよ、開いてないように見えるけど一応やってる」
 食事などは困らずに済みそうだ。
「それ以外は?」
「本屋もあるし、一応洋服屋さんもある。
でも数少ないし本屋さんはここからとても遠いの。
この町はとても広いから」
「もしかして、場所によって雨の量とか違ったりするの?」
 カレンが興味津々に聞いた。
「んー…あるんじゃない?
この辺は比較的マシな方らしいし」
 この滝のような勢いで降ってる場所が比較的マシと言う事は酷いところはいったいどうなっているのだろうか。
「まぁすぐ慣れるよ」
軽くあしらう少女。

研究所を調べると、民間の家を少し改造したようなちゃちなもので寝室や台所、リビングまである。
だがまぁ研究に支障はない。
それに、カレンと一緒ならば悪い気はしない。
あとは少女に言われた通りこの街に慣れるだけなのだ。

あれからもう五年も経っていた。
私は日記を失くしてしまっていたのだ。
今日、五年ぶりに日記が出て来たので書いてみる。
こういうものはたいていしばらくしてから出てくる場合もある。
そうじゃない場合が多いが。
まぁ、今度は失くさないように気を付けよう。
さて、今までかけなかったことを書いていこう。
街にはだいぶ慣れた。あの少女に名前を聞いた。
本名は教えてはくれなかったが、「憂鬱女」と言われた。
最初はそう呼ぶことをためらったが、今では「憂鬱さん」と呼んでいる。
あと、カレンと結婚をした。
とても幸せである。
今のところはこれくらいだろうか。

今日は少しばかりショックなことを聞いてしまった。
カレンは子供が出来ない身体らしい。
私もショックではあったが、やはりカレンが一番落ち込んでいる。
しかし、カレンが子供が産めないとしても私はカレンを捨てることはない。
これからもずっと、彼女を愛し続けるだろう。

私達は、新たに研究を始めた。
機械に感情を作るという実験を。
今までにどれだけの人が試した事だろうか。
感情のあるロボットを作ったのは未だにいないのだ。
この研究は長引きそうだ。

とりあえず、機械人形を作り上げプログラムの作成。
これは分担してやることにした。
私がプログラムを、カレンが機械人形を作りにかかった。

カレンが作成している機械人形が完成に近づいたというので見せてもらった。
それは見事な出来栄えで、後は別にしてあった手足をつなげば完成だと言う。
性別は男だろう。
私は、機械人形を眺めた。
そして気づいた。
この機械人形は、どこかカレンに似ている。
 カレンと誰かを足して二で割ったような顔。
「気づいてしまった?」
 カレンが微笑みかけながら言う。
「私と貴方の子供が成長したら、こんな感じかなって」
そう、どこか悲しげにほほ笑む。
そうかもしれないね、と私はカレンの頬に口づけた。

カレンが熱を出して、倒れてしまった。
最初は風邪と疲労だと思っていた。
だがこんなにも長く響くのはおかしい。
医者を呼んで、診察をしてもらう。
カレンは風邪ではなかった。
今の流行病にやられたと聞いた。
あまりにも最近の物なので、薬はない。
助かる見込みも全くない。
カレンはもう、長くない。

本当に、長くないそうだ。
機械人形は出来上がっている。
後は私のプログラミングだけなのだ。
それまでに何としても完成させたい。
彼女に、あの完成した機械人形を。
いや、息子を見せてあげたい。
何としても。

カレンの病状が判明してから三日経った。
プログラムの形は出来上がってきた。
もう少し時間をかければ、出来上がる。
今夜も徹夜だ。

あれから六日。
プログラムに異常が出た。
バグだ。
いくら修正しても、修正すればするほどバグが現れて増えていく。
どういうことだ。
どうしてこんなにバグが出るのか。
原因を探ってもまた新たに原因が出来上がる。
どうして。

十五日たった。
バグは収まるどころか、どんどん増えていく。
ここの所ロクに寝ていない。
 そんな私の疲れた様子を感じ取ったのか、カレンはか細い声で私に言う。
「大丈夫?お願いだから、無理しないでね?」
 そう不安そうな顔のカレン。
「大丈夫だよ」
そう笑って、言葉を返した。
カレンは日に日にやつれていく。

二十日目。
憂鬱さんがお見舞いに来てくれた。
カレンのために食べやすいお粥を作ってくれた。
しばらくいてくれるそうなので、憂鬱さんにカレンを任せて私はプログラムの修正に戻った。
バグは減らない。

あれから憂鬱さんが毎日来てくれる。
私に気遣ってくれているようだ。
だから、休憩のときに必ずお茶を入れてカレンと憂鬱さんと私の三人でほんの少しのお茶会をすることにした。
このお茶会は、これから毎日することになるだろう。

カレンの様態が悪化した。
一か月も持たないそうだ。
相変わらずバグは減らない。
もう、だめなのだろうか。
いや、できるところまでする。
間に合うかもしれない。

先ほど、カレンが息を引き取った。
間に合わなかった。
その場に、憂鬱さんも立ち会っていた。
泣いていた。
彼女が泣くところを見るのは、初めてだった。
滅多に泣くこともなく、笑うこともなかった。
それでも、お茶会の時は時折少女らしい笑みを浮かべて笑っていた。
その笑顔も、もう見れないのだろうか。

不思議なことに、バグがどんどん消えて行った。
直せば綺麗に修正され、異常もなかった。
カレン、君はもういないけれど、どこかで見ていると信じている。
もうすぐ、完成しそうだ…。

プログラムを機械人形にインストールし、起動をした。
正常に動いた。
名前は決まっている。
クロード。
カレンがそう決めていた。
 クロードが目を開けた。
「おはよう、クロード」
 と言うと、クロードは機械的な動きで首をかしげた。
「クロード……」
「君の名前だよ、クロード」
どうだろうか、クロードは喜んでくれるだろうか。
しかし、クロードは表情を表すことはなかった。
……まぁまだテストの段階だ。
これからだ、これから。

一か月。
クロードの表情が現れることはなかった。
これは、まさか、失敗したというのか。
あぁ、なんという事だ。
 カレンとの努力の結晶は、失敗作に終わってしまったのだ…。
「博士?」
クロードに声をかけられ、我に返る。
それでも、この機械人形を壊すなどできない。
彼は、私とカレンの息子だ。

どうやら無理をしすぎてしまったらしい。
よく咳き込む。
たまに、吐血をする。
もう私も長くはないだろう。
クロード。
そうだ、クロードに言っておかねばならない。
彼ならきっと、月下美人を見れる。
水遣りを怠らないように、言わねばならない。
そしたら、私たちの事を思い出してほしい。
そう言おう。
たとえ、表情はなくとも。
覚えてもらえればそれでいい。
それにしても今日はなんて星がきれいなのだろう。
死ぬにはもってこいの日ではないか。
さぁ、長い事書いてきた日記にも終止符を打つ時が来た。
きっとこれが最後だ。
誰かが読んだりするのだろうか。
だとしたら、覚えておいてほしい。
ここに、研究者である私がいた事を。
トリーデン・クラウンが、ここに存在していた事を。


機械人形は、最後のページを読み終えた。
どうやら、この機体はクラウン博士の奥さんが作ったようだ。
機械人形は日記をもとの場所に戻すと、咲いたばかりの月下美人を眺めた。
これは、クラウン博士にとってとても大切な花なのだ。
そう思うと、何か胸が熱くなった気がした。
オーバーヒートだろうか。
そう思いつつ一つ、月下美人の花をとり色とりどりの花束に加えた。
さぁ、明日はクラウン博士の命日だ。
丘へ行こう。


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【2012/01/09 02:43】 | 修理屋シリーズ
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